橋と扉

庄内時代の後半は、よく自転車で大阪市内に行きました。
神崎川と淀川と2カ所、橋を超えるんですが、写真は2008年7月ころのもので、
この眺めがなぜか好きでした。

ドイツの哲学者ゲオルグ・ジンメルのエセーで、「橋と扉」という示唆に富む文章があって、
両義性に満ちた世界の中で、分かたれたところに橋を架けるということの意味、
閉じた空間から境界の外に出るときに扉の持つ意味を、
比喩というか象徴的存在として読みほどいています。

分断と結合を視覚的に表現する橋。
閉じた空間から外部へと誘う扉
こちらとあちら。
分断された世界をつなげようとする試み。

ジンメルを読むと、橋を越えることで、橋を架けることで
なにか新しい世界が開けるような気がしていました。

そういえば、昔、イタリア文学者の須賀敦子さんが、フランスの哲学者シモーユ・ヴェイユの思想を
「世界をよこにつなげる思想」と書いていたことが思い起こされます。

庄内時代もいくつか取材していただいたことがありましたが、
これでなにかが変わるんだなぁと取材中に感じたのが、
2009年5月発売のあまから手帖のときで、
下町のお好み焼き屋で、645の中判カメラのシャッター音が鳴る度に、
これから自分たちどこに行くんだろうと思ったことを覚えています。

今月で移転して、いち年になります。
もっと親しんでもらえるようにあれこれ考えています。
「変」なのか「偏」なのかはわかりません。「ヘン」な「お好み焼屋」ですが、
帰るときに「楽しかった」と言ってもらえたらそれでいいかのなと思っています。

 

いづみ橋 日本酒の会のお知らせ

いづみ橋蔵元《橋場友一》氏を囲む会/お好み焼パセミヤ

7月29日(日)14:00から、此花区の酒屋、さかしたさん主催の日本酒の会をします。
誠に勝手ながら、今回は、飲食関係者限定とさせていただきます。

神奈川県海老名の泉橋酒造株式会社から橋場さんをお招きして、
米作りから取り組む蔵の日本酒について語っていただく予定です。
(上の写真はいづみ橋のHPより)

泉橋酒造株式会社HP
http://www.izumibashi.com/

ご興味のある方は、いちどパセミヤまでお問い合わせください。

以下、さかした様からのご案内です。

〜《ドメーヌ・イヅミハシ》の試み、そして《サケ・ナチュール》への挑戦〜

横文字の概念やワインの世界に用いる言葉を使えばよいというものではありませが、新しい言葉でもって既存の物語を切り取れば、今までは違った断面が見えてくることがあり別の物語を引き出せる可能性があります。この度の会では泉橋酒造さんのお酒を十種類程を用意し、蔵主である橋場さんに蔵でのお酒作りに関して少し詳しいお話を伺えればと考えています。ある程度はこちらで話の縦軸を作らせていただき、それに答える形でお話を準備していただきます。また、パセミヤさんでは通常のお好み焼等のメニューとは別に店主中川善夫氏の「気晴らしメニュー」と呼ぶ料理を提供しています。既存の美味しさとか調理方法の価値観を違った視野で見させてくれる、ある種の実験的な試みもされています。今回は具体的なマリアージュというのは少し脇に置いておいて、いづみ橋さんの古くて新しいお酒作りのスタイルが、考え方の立ち位置としてシンクロするような料理との組み合わせを楽しんで頂ければと思っています。

1)生酒を3種類
夏ヤゴソーダ/とんぼラベル/その他の生酒
蔵の沿革と一貫造り、その試みの現在地に関しての話

2)恵(山田錦)を3種類
海老名耕地/赤ラベル/青ラベル
田んぼの土壌の違いでお米の出来がどのように変わるか、また味わいにその違いは現れるのか。
日本酒におけるテロワールは可能か?

3)山廃仕込を米違いで3種類
亀の尾/神力/雄町米
お米の違いは味わいにどのように現れるのか。
山廃仕込の試みに関して。

4)きもと造りのお酒
黒蜻蛉
乳酸添加とアルコール添加、(「SO2」の添加との比較)
《Sake Nature》への挑戦

自我田、大自然林

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圧倒的にワインが出るんですが、日本酒、焼酎もあります。

アイテムは豊富では無いですがその分、好きなもののみに絞っています。

今だと写真の2本。
「無濾過 自我田」は、移転前から使っているもので、
熊本の豊永酒造の米焼酎。有機農産物加工品の認証を取得しています。
自らの田んぼの米を使っているからこの名前だそう。
とにかく、ひたすらなめらか。

「屋久島 大自然林」は、鹿児島の本坊酒造が屋久島の湧き水で仕込んだ芋焼酎です。
優しい香りと口あたりです。

機会があれば、いちどお飲みいただけたらなと思います。

明治大正史 世相編

昨年、引っ越しした際、どのダンボールに詰めたかわからないままになっていて、
もう一度、読みたい本が、柳田国男の「明治大正史 世相編」(講談社学術文庫、中公クラシックなど)です。

民俗学の提唱者、柳田国男が書いた本です。
人々の暮らしがいかに変化してきたかを平易な文章で書いています。

日本の食文化について真剣に考えるなら、宮本常一の著作とともに
外せない本であるとともに、意外と読まれていないのではと。
とりわけ、第二章の「食物の個人自由」と第七章の「酒」。

昭和初年の時点から、明治・大正を振り返っているのですが
社会の変化の速度が速まっているのがよくわかります。
昔のとか、古き良きとかいう安易で通俗的な偏見ではなく
きちんと庶民の生活の変遷をたどろうとするなら、
ぜひ、いちど手にとって読んでみて欲しいです。

色であったり、匂いであったり、
当たり前と思っていることが、
近年のものであると言うことがわかります。

食事についても、1,温かくなった、2.柔らかくなった、甘くなったと指摘しています。

「温かい飯と味噌汁と浅漬と茶との生活は、実は現在の最小家族制が、やっと拵え上げた新様式であった。」

(第二章 食物の個人自由)

鵜呑みにするのは危険かと思いますが、この方の文章から読み取るべきことは多いです。