La Kanro、料理の現在

個人的に一番気になる料理人が東天満に店を構えた。店の名前は、La Kanroといいます。
福島のKamoshiya Kusumotoの初期に居た彼はパリのアストランスなどで働いた経験がありってことをよく言われるんですが話してみるとその経験をいかしつつもすでに自分の世界を構築していました。
当時のKusumotoさんでは、バータイムに楠本さんがサービスをして、彼が料理をつくるということをしていて
一度無理を言って、事前に予約をして何皿かコース仕立てで出してもらったことがあるんですが
そのときの料理が鮮烈で未だに記憶に残っています。
食材の組み合わせ、火入れ、どれをとってもロジカルで丁寧に考えられていて、一皿の完成度の高さに圧倒されました。

Kusumotoさんを退職して以降しばらくやりとりが途絶えていたんですが、
パセミヤが移転してしばらくしてから、フラッと来るようになりました。
最初の頃は料理自体もしていないかもという感じだったのですが、だんだん料理の話、自分が店をしたらこんな感じにしたいという話が混じり、実際にオープンに向けて始動したと聞いたときは喜びました。
あの料理がまた食べれるんです。

11/1にオープンしたんですが、彼と相談の上1週間待って先日の火曜日に、尊敬する飲食関係者の皆さんと行ってきました。単に”ぷちはぴちゅ”だったという意見も(笑)

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料理のことしか彼と話したことはなかったんですが、インテリアから内装、音楽に至るまで至福の空間がそこにはありました。カウンター8席のみで、一日一営業、現在は一日二組のみだそうです。
料理は、8、000円と10、000円のふたつ
今回はおまかせでお願いしました。

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セッティングはこんな感じ
本革のマットにハンドメイドとすぐにわかるカトラリーが洒落ています。

今回無理を言ってワインを持ち込ませてもらったんですが
店のワインを何か飲もうと言うことになって、あれこれ相談してやっと決まったのがこちら

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ギファン・エナンひさしぶりでした。

そして料理スタート

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左から、栗、シャドークインのグジェール、原木椎茸のベニエ
どれもハーブやスパイスが利いてて、五感を刺激してくれます。
理想的なスターターですね。これ。
ギファン・エナンとも相性よかったです。

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パプリカのムース。トマトの酸味がしっかりとあり、そしてムースは驚くほど軽い
ムースやピュレって重くなりがちなんですが、逆の発想でフレーヴァーを食べている感じ
このあたりから食べるのに意識が向きがちになりワイン飲むのを忘れることが多々ありました。

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パンも自家製。こちらはマスカルポーネのパン。
食事中のパンって難しいなといつも思うんですが、味わいも軽くていい感じでした。

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ゆり根を水でのばしたスープ、サロマのカキ、広島梶谷農園のマイクロリーフ
最初塩加減も含めて薄いかなぁと思いましたが後半、カキの塩気とマイクロリーフの香りと酸味で味わいが広がってきました。

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冷製のロッシーニ風。牛肉に削ったフォアグラとトリュフ節(笑)
冷たいフォアグラと冷たい牛肉で、濃厚芳醇な甘さを堪能出来ます。
結構びっくり

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料理に合わせてということでアンリ・ノーダン・フェランのニュイサンジョルジュを抜栓したんですが、
これ、白の方がよかったかもという意見で全員一致

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甘鯛、ブロッコリー
最近の料理って、料理名を説明しにくいこともあり、素材の名前のみの表記にした方がいいのかなと思ったりもします。
鱗を残してぱりぱりに仕上げています。
こちらは逆に赤でもあったりします。
このあたりからワインの相性は混沌とした世界に。
並べて貰おうと後のワインを全部抜栓してグラスがずらっと

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これ、すばらしかったです。1993のシュレールのゲヴェルツトラミネール
ロッシーニはこちらの方がよかったかもしれませんね。

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ゲオルグ・ブロイヤーのシュロスベルグ!
これもすばらしかったです。

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焼き米のリゾット。ポロネギ?玉ねぎ?の香りと旨みがだしの旨みと相まっていい感じでした。熱々の器だったのでみるみる周囲がお焦げに。これ食べ終わった後、スープ入れてこそげて食べれたらいいのにな(笑)

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ジャン・グリヴォーのシャンボール・ミュジニー
02だしどうかなと思ったんですがやっぱりここのワイン難しい

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ビュルゴーの鴨、ヘーゼルナッツのフォンダン、小カブ
しっかり焼いた皮とジューシーな身のコントラスト
これもイメージとしては赤ワインなんでしょうけどかなり相手を選ぶ印象
案外ロゼかも

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スイートポテト、紅茶のジュレ
これもゲヴェルツがいい感じで

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フルムダンベールのアイスと柿のジュを染みこませた柿
ひとくちたべてフルムダンベールそのままの味でびっくり

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料理は軽快で疾走感があります。
素材の組み合わせ、香り、音など五感をフルに動員して楽しむのが正解かと思います。
仲のいいメンバーで行ったにもかかわらず、食事中の会話は控えめになりました。
みんな料理と向き合ってた。
戸惑い、ためらい、魅せられて、引き込まれて

今の時代に、料理をつくるということはいくつかの困難が伴います。当然そこには歓喜もありますが。
とりわけレストランという形式においてジャンルの境界線がゆらいでいます。
そして越境を試み、味覚というプリミティブな感覚から世界観を変えてしまうような冒険的で挑発的な試みがあったりもします。大げさな物言いではなく。テクノロジーの進歩が、素材の表情を変え、いままで感じなかったような味を引き出したりもします。食べるという経験を通じて既成概念に揺さぶりをかけるような試みが実際に行われているんです。
問題は、それをどう受け止めるのかということでもあります。

今回、一番気になったのはワインとの相性でした。これかなり難しいですね。
一本で通すのはかなり難しい。あえていえば白でしょうけどどれにするかまた悩ましい。
ペアリングにしてピンポイントを狙うしかないのかなぁとも思いました。
料理にワインを取り込む形式?
なんにせよとても貴重な経験となりました。
やっぱり彼の料理は興味深いです。

La Kanro
ラ・カンロ
大阪市北区東天満1-2-3 金屋ビル1F
☎06-6242-8586
open : 18:00〜20:30LO
日祝12:00〜13:30LO
close: 月曜
料理 8、000円、10、000円の二種類 内容は時期によって変わります。

 

 

10月、11月の定休日のお知らせ

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10月と11月の休みは以下の通りで、毎週火曜日休みます。

10月
1日(火)
8日(火)
15日(火)
22日(火)
29日(火)

11月
5日(火)
12日(火)
19日(火)
26日(火)

なお、現時点での予定ですので、変更になる予定がございます。
ご来店の際はご確認ください。
皆様のご来店お待ちしております。

営業時間は、19:00から23:30まで(最終入店)です。

小さな店のため満席の場合がございます。
ご来店前に席の空き状況を必ずご確認くださいますようよろしくお願いします。

(注)
雑誌などでご紹介いただいている野菜を使った料理は(通称「気晴らしメニュー」)前日までに予約が必要です。
当日のご予約の場合は、通常メニューのお好み焼き、焼きそば、焼きうどん、及び飲み物のみとなりますのでご注意ください。
単品メニュー(アラカルト)は庄内の時同様、ございません。
前日、当日のキャンセルの場合、キャンセルチャージが発生します。
なお、誠に勝手ながら、ご予約は4名様までとさせていただきます。
店内は禁煙です。
ワインを提供する店ですので、強い香水の方はお断りする場合がございます。

酒販ニュース ワイン特集に掲載して頂きました。

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醸造産業新聞社の酒販ニュース2013年9月21日号 第2集 ワイン特集p.51『「外飲み」のワイン現在地とこれから』にてパセミヤを取り上げて頂きました。

こういった業界紙ははじめてかも。
あれ?こんなこと話したっけということもふくめてなかなか載っているのが自分というのが理解できていなかったり・・・(苦笑)
もし見かけたら笑ってください。

山の家の記憶とワインづくりの思想

8/24(土)、25(日)と山梨県北杜市蔵原で開催された
「BeauPaysage 山の家 2013」に様々なご縁が繋がり参加してきました。
もちろんお好み焼きを皆さんに食べて頂き、好評だったのでとても嬉しかったのですが個人的にはボーペイサージュの蔵原と津金の畑を見れたことがとても大きかったです。
いままで見たワイン用の葡萄の畑とはかなり異なる畑でした。
そしてそれはワインについての考え方の違いでもあります。
そのあたりについて感じたことなどを少し書いてみようかと思います。

果物原料である葡萄が、発酵というプロセスを経ることによりワインとなるのですが、そこに至るまでのあいだに、紀元前の昔からの試行錯誤のうえに、手順なり工程がはぐくまれてきました。
葡萄の樹になる房からワイングラスの中の液体になるまでには、意識的にせよ無意識的であるにせよ、人と環境との関係性についての考え方が強く刻み込まれ反映しています。

銘醸地とされる産地が世界各地に多くありますが、もとから葡萄が自生していたわけではなく、歴史的には、さまざまな勢力の広がりとの関連性が認められます。
ロジェ・ディオンが指摘するように、ブルゴーニュの畑の地図が、オタンの司教区と重なるのは単に土壌の卓越性という理由では片付けられないのです。

では、日本でワインをつくるとはどういうことか?
おそらく日本の生産者の皆さんは明治期の川上善兵衛や福羽逸人の時から常にこの問いに向かい合ってきたのだと思います。
答えはひとにより様々ですので、是非の判断は保留で。

今回は畑についてです。
比較のため、ボーペイサージュ以外の畑の写真も掲載しますのでご注意ください。

まずは、こちらから

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(2010年6月27日丹波ワインにて撮影)

ワイン用の葡萄はヴィニフェラ属ですが、フィロキセラ対策のため、耐性のある別の属を台木とし接ぎ木する形で栽培します。これは接合した後。
この段階で選択がすでに働いています。

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(2010年4月18日神戸ワイン用の葡萄を栽培されている山口さんの畑にて撮影。品種はメルロー)
春先の葡萄の樹です。これから芽が出て伸びてくるのですが、枝が左右交互に等間隔に出ているのは剪定のためです。なにもしなければおそらくいろんな方向から枝が伸びることに。

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(2010年5月8日おなじく山口さんの畑)
こちらは芽が出てきているところ。
この芽を下記の写真のようにします。

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(2010年5月8日おなじく山口さんの畑)
枝にひとつだけ芽を残してあとは落とします。この芽がのびて今年の葡萄がなります。

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(2010年6月27日丹波ワインにて撮影。写真はセミヨン)
順調に生育し伸びたら、上に張ったワイヤーに留めてまとめます。
ほぼ等間隔で、風通しがいいようにまとめられているのがわかりますでしょうか?

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(2013年8月25日BeauPaysageの津金の畑。品種はメルロー)
時期が異なるので単純に比較できませんが、枝がかなり多いのがわかりますでしょうか?
じっくり見てみると脇から出ている枝もおとさずまとめていました。

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(2013年8月25日ボーペイサージュの津金の畑。品種はメルロー)
枝や葉を積極的にコントロールしていないので、ぶどうの房の位置が重なったり茂みになったりしています。
岡本さんに尋ねたのですが、あっさりと「(枝はあまり)落としません」と即答。
葡萄の樹どうしの間隔もひろげていってるそうで、キャノピーマネージメントも気にしてなかったりでこのあたりからも他の方と異なるロジックで葡萄の樹と向き合っているのがわかります。
BeauPaysageのワインに淡い味わいの印象を抱くのは、葡萄の凝縮感を得るために一本の樹に出来る房の数をコントロールしないことも関係しているのかも知れません。

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(2010年8月16日藤丸さんが初期に借りたカタシモワイナリーの区画。品種はマスカットベリーA)
参考で大阪のワインショップFUJIMARUの藤丸さんがカタシモワイナリーさんから借りた棚仕立ての区画の写真を。
仕立て方の違いはありますが、かなり丁寧に作業されていることもあり(藤丸さんはオーストラリア、NZのワイナリーでの経験があります。)、位置的な条件としては恵まれていない場所だそうなんですが、それまで何年も色づかなかった葡萄が色づきました。日差しがまんべんなく差し込んでいるのがわかりますでしょうか?

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(2013年8月25日ボーペイサージュの津金の畑。品種はピノ・グリ)
まだ樹齢が低いのと、時期が異なるため、単純な比較は出来ませんが、丹波ワインや山口さんの畑と比較すると、栽培についての考え方というか向いている方向が異なるのはわかって頂けるかと。

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(2013年8月25日ボーペイサージュの蔵原の畑。品種はセミヨン)

葉を落とさなかったり、脇芽もあまりいじらないので、かなり鬱蒼とした表情なんですが、静かにそこにあるといった風情で。
畑全体もひとつの生き物で、呼吸というか胎動というか脈動をしっかりと感じました。
場所も山に囲まれて、とてもコスモロジカルな感じで特別な雰囲気に包まれていました。
あ、植物相と動物相の組み合わせについてとか聞くの忘れた。

積極的に介入し人為的にコントロールし本質に迫るやり方ではなく、介入を極力控えることで本質を引き出そうとするやり方なのかなと。
そこにあるのはブルゴーニュやボルドーをやみくもに目指すのではなく、いまここにワイン用の葡萄を植生を理解しながら根付かせることでどういったワインが出来るのかを探求しているようにも思えました。
すぐに結果が出るものではありませんが、とても興味深い畑であることは確かでした。
また伺える日を楽しみにしています。

最後に山の家の二日間を終え充実感と皆さんともう少し一緒に居たい名残惜しさが混ぜ合わさって、感無量であまりちゃんと挨拶が出来ませんでしたが、またいつかどこかでご一緒できたらなぁと思っています。

声をかけていただいた、岡本さん、鎌倉の石井さん、美穂さん、ゴッチャポントの小城さん、本当にありがとうございました。
Kyoyaの府金さんとは不思議なご縁で今回もご一緒できてとても嬉しかったです。
そしてメリメロの宗像さん、葡呑の中湊さん、ロッシの岡谷さんの仕事が間近で見れたのはラッキーでした。
そのほかにも沢山の仲間と再会できてとても密度の濃い二日間でした。
今回は夏休みの強化合宿みたいな感じで、単に楽しかったで終わるのではなく、この二日間の経験がこれからの自分の仕事にしっかりと活かせるように頑張りたいと思います。

(補)「ワインづくりの思想」は、ボーペイサージュの岡本さんとも縁の深い、麻井宇介さんの後期の著作「ワインづくりの思想 銘醸地神話を超えて」にかけています。お会いしたことはないのですが麻井さんの本は何度読み返しても新しい発見があり、明日に繋がるなにかを見つけれるような気がします。特に日本ワインの可能性を信じていた方なので、岡本さんのワインを飲むと麻井さんのスピリットはこうして受け継がれているんだなぁと感じます。