山の家の記憶とワインづくりの思想

8/24(土)、25(日)と山梨県北杜市蔵原で開催された
「BeauPaysage 山の家 2013」に様々なご縁が繋がり参加してきました。
もちろんお好み焼きを皆さんに食べて頂き、好評だったのでとても嬉しかったのですが個人的にはボーペイサージュの蔵原と津金の畑を見れたことがとても大きかったです。
いままで見たワイン用の葡萄の畑とはかなり異なる畑でした。
そしてそれはワインについての考え方の違いでもあります。
そのあたりについて感じたことなどを少し書いてみようかと思います。

果物原料である葡萄が、発酵というプロセスを経ることによりワインとなるのですが、そこに至るまでのあいだに、紀元前の昔からの試行錯誤のうえに、手順なり工程がはぐくまれてきました。
葡萄の樹になる房からワイングラスの中の液体になるまでには、意識的にせよ無意識的であるにせよ、人と環境との関係性についての考え方が強く刻み込まれ反映しています。

銘醸地とされる産地が世界各地に多くありますが、もとから葡萄が自生していたわけではなく、歴史的には、さまざまな勢力の広がりとの関連性が認められます。
ロジェ・ディオンが指摘するように、ブルゴーニュの畑の地図が、オタンの司教区と重なるのは単に土壌の卓越性という理由では片付けられないのです。

では、日本でワインをつくるとはどういうことか?
おそらく日本の生産者の皆さんは明治期の川上善兵衛や福羽逸人の時から常にこの問いに向かい合ってきたのだと思います。
答えはひとにより様々ですので、是非の判断は保留で。

今回は畑についてです。
比較のため、ボーペイサージュ以外の畑の写真も掲載しますのでご注意ください。

まずは、こちらから

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(2010年6月27日丹波ワインにて撮影)

ワイン用の葡萄はヴィニフェラ属ですが、フィロキセラ対策のため、耐性のある別の属を台木とし接ぎ木する形で栽培します。これは接合した後。
この段階で選択がすでに働いています。

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(2010年4月18日神戸ワイン用の葡萄を栽培されている山口さんの畑にて撮影。品種はメルロー)
春先の葡萄の樹です。これから芽が出て伸びてくるのですが、枝が左右交互に等間隔に出ているのは剪定のためです。なにもしなければおそらくいろんな方向から枝が伸びることに。

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(2010年5月8日おなじく山口さんの畑)
こちらは芽が出てきているところ。
この芽を下記の写真のようにします。

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(2010年5月8日おなじく山口さんの畑)
枝にひとつだけ芽を残してあとは落とします。この芽がのびて今年の葡萄がなります。

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(2010年6月27日丹波ワインにて撮影。写真はセミヨン)
順調に生育し伸びたら、上に張ったワイヤーに留めてまとめます。
ほぼ等間隔で、風通しがいいようにまとめられているのがわかりますでしょうか?

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(2013年8月25日BeauPaysageの津金の畑。品種はメルロー)
時期が異なるので単純に比較できませんが、枝がかなり多いのがわかりますでしょうか?
じっくり見てみると脇から出ている枝もおとさずまとめていました。

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(2013年8月25日ボーペイサージュの津金の畑。品種はメルロー)
枝や葉を積極的にコントロールしていないので、ぶどうの房の位置が重なったり茂みになったりしています。
岡本さんに尋ねたのですが、あっさりと「(枝はあまり)落としません」と即答。
葡萄の樹どうしの間隔もひろげていってるそうで、キャノピーマネージメントも気にしてなかったりでこのあたりからも他の方と異なるロジックで葡萄の樹と向き合っているのがわかります。
BeauPaysageのワインに淡い味わいの印象を抱くのは、葡萄の凝縮感を得るために一本の樹に出来る房の数をコントロールしないことも関係しているのかも知れません。

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(2010年8月16日藤丸さんが初期に借りたカタシモワイナリーの区画。品種はマスカットベリーA)
参考で大阪のワインショップFUJIMARUの藤丸さんがカタシモワイナリーさんから借りた棚仕立ての区画の写真を。
仕立て方の違いはありますが、かなり丁寧に作業されていることもあり(藤丸さんはオーストラリア、NZのワイナリーでの経験があります。)、位置的な条件としては恵まれていない場所だそうなんですが、それまで何年も色づかなかった葡萄が色づきました。日差しがまんべんなく差し込んでいるのがわかりますでしょうか?

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(2013年8月25日ボーペイサージュの津金の畑。品種はピノ・グリ)
まだ樹齢が低いのと、時期が異なるため、単純な比較は出来ませんが、丹波ワインや山口さんの畑と比較すると、栽培についての考え方というか向いている方向が異なるのはわかって頂けるかと。

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(2013年8月25日ボーペイサージュの蔵原の畑。品種はセミヨン)

葉を落とさなかったり、脇芽もあまりいじらないので、かなり鬱蒼とした表情なんですが、静かにそこにあるといった風情で。
畑全体もひとつの生き物で、呼吸というか胎動というか脈動をしっかりと感じました。
場所も山に囲まれて、とてもコスモロジカルな感じで特別な雰囲気に包まれていました。
あ、植物相と動物相の組み合わせについてとか聞くの忘れた。

積極的に介入し人為的にコントロールし本質に迫るやり方ではなく、介入を極力控えることで本質を引き出そうとするやり方なのかなと。
そこにあるのはブルゴーニュやボルドーをやみくもに目指すのではなく、いまここにワイン用の葡萄を植生を理解しながら根付かせることでどういったワインが出来るのかを探求しているようにも思えました。
すぐに結果が出るものではありませんが、とても興味深い畑であることは確かでした。
また伺える日を楽しみにしています。

最後に山の家の二日間を終え充実感と皆さんともう少し一緒に居たい名残惜しさが混ぜ合わさって、感無量であまりちゃんと挨拶が出来ませんでしたが、またいつかどこかでご一緒できたらなぁと思っています。

声をかけていただいた、岡本さん、鎌倉の石井さん、美穂さん、ゴッチャポントの小城さん、本当にありがとうございました。
Kyoyaの府金さんとは不思議なご縁で今回もご一緒できてとても嬉しかったです。
そしてメリメロの宗像さん、葡呑の中湊さん、ロッシの岡谷さんの仕事が間近で見れたのはラッキーでした。
そのほかにも沢山の仲間と再会できてとても密度の濃い二日間でした。
今回は夏休みの強化合宿みたいな感じで、単に楽しかったで終わるのではなく、この二日間の経験がこれからの自分の仕事にしっかりと活かせるように頑張りたいと思います。

(補)「ワインづくりの思想」は、ボーペイサージュの岡本さんとも縁の深い、麻井宇介さんの後期の著作「ワインづくりの思想 銘醸地神話を超えて」にかけています。お会いしたことはないのですが麻井さんの本は何度読み返しても新しい発見があり、明日に繋がるなにかを見つけれるような気がします。特に日本ワインの可能性を信じていた方なので、岡本さんのワインを飲むと麻井さんのスピリットはこうして受け継がれているんだなぁと感じます。